怒りの根っこにあるもの

旦那様が、近所で評判のお店に連れて行って下さいました。
フレンドリーで優しいサービスのお兄さんが迎えてくれます。
小さなお店で、インテリアも素敵です。

ホテルもお店も、大きいのより、小さい方が好きです。
良くも悪くも、個性がはっきりしておもしろいと思います。
黒板メニュー、どれも魅力的で悩みます。

･･･

旦那様は、少しご不満の様子、出てくるお皿に文句が出ます。
ソムリエお勧めのワインがお口に合わなかったのでしょうか。

「サラダ、ちょっとしょっぱいな。塩がききすぎだね」

「このスープは、うーん、野菜のえぐみが強いかな」

「いいヒラメを使ってる、ソースを工夫したらもっと美味しく食べられるのに」

外食に来て、お店の悪口を言うのは私の趣味ではありません。
いいところを探して、ポジティブな表現を心がけます。

「そうかしら？」

「こういう味に仕上げるのも、野性味があって、おもしろいわ」

「旬のものはやはり味が濃厚でおいしいです」

私の口調もすこし強くなっていったかもしれません、
だんだん酔っぱらってきた旦那様、とどめの一言です。

「僕が作ったほうが美味しいな！」　

･･･

お客の醸し出すムードを、まともなお店のスタッフは察知します。
お金を払えば何をしてもいいわけではない、お客にも礼儀があります。

家に帰って、あれやこれや批評するのは、どうぞ、ご自由に。
その場では、お店のこだわりとかテイストを尊重する姿勢が大事と思うのです。

お店の雰囲気って、サービスする人だけが作るのではありません。
お客の役割、それは例えば、招待されて友人宅を訪問する礼儀正しさです。

友人のもてなしに対して、「この料理、ちょっと残念だね」とは言いません。
美味しくなくても、「色合いが素敵」とか「宅でも作ってみたい」とか。

･･･

沈黙5秒。

ちょっと顔をしかめていた　と思います。
旦那様は、たぶん、私の不機嫌に気づいたでしょう。

本当に、ユキコ道の凪（なぎ）は難しいです。
修行が足りません。

ある居酒屋チェーンの、スパイシーな看板メニューのこと、
ビールの売り上げを伸ばす作戦を思い出してお話しました。

「このお店も、お塩が強めなのは、お酒をいっぱい飲ませる作戦かも！」

･･･

私には、思考が停止してしまう時があります。
頭の中が火事になって、ボーボー燃えているような時です。

『怒り』　です。

怒りは、たいていの場合、別の感情を覆い隠すためのカモフラージュです。
私は、コントロール欲求や、怖れ、不安などが多いでしょうか。
そういう時、ともかく、破壊行為をせずにやり過ごす、知恵を得たいです。

私の考え、私の思いは、どうでもいいものです。
こうあるべき、という思いにとらわれて、目を三角にしている暇はありません。
もっと、賢く、頭を使わないといけません。

一番大事なことは、何でしょうか。
今この時、パートナーと一緒に過ごす時間を、楽しむことです。

明日には、旦那様か、私か、どちらかが事故で死んでしまうかもしれません。
最後の晩餐が険悪な雰囲気で終わったとしたら、どれほど後悔するでしょうか。

どうしたらうまくいくだろう？次に同じことがあったら？
シュミレーションしてみます。たとえばこんな返しを覚えておきます。

「そうそう、さっきお話していた○○について、もう少し詳しく教えてくださる？」

「うふふ、私も自分の作った料理が世界一って思う時あります」

･･･

あるいは、旦那様は自分を褒めてほしいモードだったのかもしれません。

「すごいわ、じゃあ、週末はシェフに何をリクエストしようかしら？」

「そうね、こないだ旦那様が作ってくださった○○は絶品でした」

･･･

後で、ひとりで静かに考えられる時が与えられました。

旦那様がお店に対してしたことを、
私も別の場面でしていないだろうか、よく点検してみました。

他人を見てひどく感情を波立てること、腹が立つことには、
必ず、何か裏の理由があります。

他人の振る舞いを通して、
自分の欠点や、正視したくない傲慢さを見せつけられている。
だから、怒りが出るのだと思います。

旦那様の姿は、私自身を映す鏡。

良い時も、悪い時も、
自分の選んだパートナーと、機嫌よく過ごしていけますように。

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