さて、僕の本の置き場所の問題の解決策は以下のような方法である。まず、読んで面白かったものはすぐ人にあげる。貸すのではなく、あげるのである。つまらなかった本は古本屋もしくはオークション。要するに手元のは置かないのである。
「また読みたくなったらどうすんのさ」
そうそこが味噌である。また読みたくなったらまた買うのだ。そうもう一度本当に読みたくなったらそれは自分にとって価値ある本であり、ましてはまた金を払うほどならば真に価値あるものとなる。そうやってフィルタリングをかけても今手元には500冊ほど残っている。1年に一度この一年間に読まなかった本は潔く人にやる、それでこの数をキープしている。
この500冊の中には50冊ほど海外小説もあるのだが、その中の一冊が「知と愛」、ヘルマン・ヘッセの名作である。知の象徴ナルチスと愛の象徴ゴルトムントのそれぞれの人生と二人の友情を描いた作品。人間の内面に潜む相反する二つの価値を二人の人生に投影してその本質を見事に描き出している名作である。
が、僕にはこの小説は別な意味を持っている。
まだ20代半ばの頃、3歳年下の女性からの一言がきっかけだった。
「ヘッセの『知と愛』って小説に、あなたそっくりな人が書かれている」
人間とは常に自分が思い描く理想像と他人からの評価像ある意味現実の像のギャップに苦しめられるものだ。最近のこのサイトの相談のやり取りにもあったが、自分の価値は自分で決めるのではなく、他人が決める。それが理解できず自分の理想像にしがみつく人間はやはりどこかで歪みが生じる。現実の自分を理想の自分に見せかける言動はやはり周りからは見苦しく残念に見える。「本当の私はこうじゃないの!」伝わるのは悲痛な心の叫びだけである。
まず現実の自分=他人からの評価像であることを認識し、それを受け入れることから始めなければ自分の理想像に近づく一歩さえ踏み出せない。
だが、これは本当に難しい。
20代半ばの僕は会社のプロジェクトの中核になり仕事が楽しく、忙しい自分に酔っているようなそんな感じだった。ストイックに早朝から夜遅くまで働き、自分の日本を変えてやる、そんな高揚感があった。むさぶるように本を読み、知識を吸収し、人脈を広げていた。そんなとき会社の席の隣に新人として入ってきたのが前出の3歳年下の女性である。彼女とは3か月で体の関係になり、彼女はしょっちゅう僕の家に来て食事を作り週末は泊まり、半同棲のようになっていった。
ちょうど半年が過ぎた頃だったろうか、彼女が「知と愛」の話を持ち出したのは。忙しかった僕にとって彼女の存在と「知と愛」を読む時間は気を休めるにはとても貴重だった。
「知と愛」はなんとも言えない感動を残してくれた。同時にこう思った。
「ナルチスはなんて僕と似てるんだ。僕はこれからもナルチスのように真面目にまっすぐに真理を探究する男になろう」
彼女は自分の主張と通すときには、いつもちょっと顔を赤らめながらうつむき加減に僕の目をじっとみながら話す癖があった。僕が「知と愛」の感想を語ったそのときも笑顔をたたえながらもうつむき加減にしかしはっきりとした口調で僕に言った。
『あなたはナルチスなんかじゃない。ゴルトムントそのものでしょ。』
愕然とした。
僕が自分の理想像・あるべき姿・思い描く姿、と、現実の自分・他人から見える像のギャップに打ちのめされた瞬間だった。就職研修で受けた「ジョハリの窓」の結果など吹っ飛ぶような強烈な一撃だった(僕はジョハリの窓では、自分の像と他人からの像がほとんど一致していた)。
自分の頭の中、観念の世界では確かに僕は物事を真摯にまっすぐに偽りなく感じていた。そしてそれに基づいて行動していた。自分の味方には誠意を尽くし、自分を愛してくれるものには、それに応じた愛情を返していた。理性で物事を考えて行動していると信じていた。
だが、実際の行動は・・・
当時僕には高校の一年下の同級生と遠距離恋愛中だった
3歳下の女性とは「付き合う、好き」の言葉もなく、体の関係になり半同棲関係になった
仕事が忙しく疲れているとデートを2回ほどドタキャンした
などなど・・・
今の僕なら「不誠実な男」すぐに離れなさい、と一括するところである。
笑いごとでは無い。人はすべからくこのようなものだと思う。自分が思う像と周りから見える像の違いは頭で分かっていても、なかなか実感は持てないものである。
僕は20代半ばで強烈にそれを思い知らされた。
それから何年(何十年?)も経った。彼女のおかげかどうか僕は人間関係をそつなくこなし、ビジネスの世界でもそれなりにやってきた。恋愛においても大きなトラブルに巻き込まれることなくここまで来ている。
だが再び博士の理論を知り大分ショックの度合いは少ないものの愕然とする。僕は紛れも無いセックス至上主義者であり、今を生きる男子そのものなのだ。
そうそう人間の本質はそれほど変わるものでは無いのだ。僕は彼女に指摘されたゴルトムントそのものという本質を持ちながら、巧みにその本質が露わになる状況を避けていただけなのだろう。
ちなみにその彼女とはその後当然のごとく別れることになる。「ゴルトムントそのもの」という中程度の傷ともう一つ軽めの傷、そして別れ際に強烈な傷を残して去って行った・・・気が向いたら書こうかな・・・たぶん書かないな 笑
▼ コメント(9) - 新しい順
- アミィさん、こんにちは。
http://u-rennai.jp/contents/course/425/
この博士の記事が参考になりますねぇ。医者や弁護士といった専門職は別にして、仕事を通して自己実現を強く望むタイプは「即物的価値観」を重視しているでしょうから、どうしてもセックス至上主義に「なってしまう」のでしょう。
僕は本当は「抽象的価値観」を重視してるんです。でも行動は「即物的価値観」らしいです。特に女性は「即物的価値観」を持った人間だと評価します。でも本当は「抽象的価値観」を持ち、それに基づいて考えてるんです。心理学のテストでは「抽象的価値観」の持ち主らしいです。このギャップがとても悲しいです。
日記を要約するとこういうことですか 笑
>>興味あるのは、『自分の理想とは違う自分像』をつきつけられた時の心理です。
あの時はびっくりしすぎたのか、全然感情らしきものはわかなかったんですよね。彼女にもう一つ浅い傷の方でびっくりさせられたんですが、たぶんうまいんでしょうね。
電車に乗ってたらちっちゃな子供が乗ってきてニコニコしながら「おじちゃん、ほっぺにごはんついてるよ」って言われ、「あははは、やっちゃんたね」って、そんな感じです。
>っと思ったりします。結局は人は理想の自分でありたい、他人にも理想の自分像であると思っていてほしい生き物だと思うのですが…。
僕はもうズレまくりですね。博士の後にサンデルでもやられました。この年になってこの体たらくですからね。でもそういう発見は楽しいです。まだまだ伸びしろ、というか変えしろ(?)があるということと前向きに閑雅てます。
- missamisaさんからご指摘を受けたので日記に一部訂正します。
研修で受けたのは「ジョハリの窓」では無くて「エコグラム」でした。「ジョハリの窓」は別のセミナーで受けたものでした。失礼しました。
で、久しぶりに「エコグラム」をやってみたが・・・昔どういう回答をしたか全く覚えてないが、結果はやはりあまり変わってないですね(そりゃ、そうか)。
突っ込みどころ満載の結果でした 笑
- こんにちは、はじめまして。
セックス至上主義の男性は、仕事に対しては真面目な人がとても多いように思います。むしろ仕事が真面目だからこそ女性に対してまでそこまで気がまわらないというか(笑)
なので、仕事場の人に聞いてみれば、ナルチスのようだと皆思ったかもしれませんね。人は自分に対しての一面でしか他人を見れませんから。
興味あるのは、『自分の理想とは違う自分像』をつきつけられた時の心理です。不愉快なのか、相手を認めてるのか、興味深いと思うのか、人それぞれだと思うのですが、そういう『真実』を突きつける行為は恋愛上どうなのかな~…
っと思ったりします。結局は人は理想の自分でありたい、他人にも理想の自分像であると思っていてほしい生き物だと思うのですが…。
- ジェト☆さん、こんばんは。
そうなんですよ。どこをどう誤魔化しても博士の理論によるとセックス至上主義で今生きなんです。
「別れ際の強烈な傷」
これを「まるで物語のように語る」僕が確かにそこいるんです。
一つだけ言い訳させていただくと、もてないセックス至上主義なので結果悪いことは何もしてないです 笑 - くれはさん、こんばんは。
自分の昔のことはもう書いてもいいかな、って思ってます。
僕は恋愛相談(専門ではないですが)で、男女双方の話を聞くケースが多いのですが、これがまた立場の違いによってこうも現実の解釈が違うのかと驚くことばかりなのです。
残念ながらこちは公に書くことができないことが多いのです。
なのでやっぱり自分のことかな・・・恥ずかしいことばかりですけど。 - よーちんさん、こんばんは。
僕が日記を書こうかな、と思い立ったのは実はよーちんさんの日記からです。当事者のよーちんさんはいろいろ大変でしょうが、亀田氏とのやり取りにはいつも大笑いさせてもらっています。
「よーちんの婚活日記」 本になってもおかしくない内容ですね。
これからも楽しみにしています。 - こんにちは。
いつも、相談の解答を参考にさせて頂いてます。
日記を書かれないのかな?と思っていたので、飛んで来ました 笑
私も続きをお聞きしたいです。 - はじめまして。
セックス至上主義で今生き男子(^_^;)
なるほど、それで相談文読んで、不誠実な男かどうかすぐ見分けられてたんですね。
「別れ際の強烈な傷」の話も、良かったらいつかやんわり教えてください(*^_^*) - 是非お聞きしたいです!
気が向かれますように(≧∇≦)
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