9年前のそのときの出来事を僕は今でも鮮明に覚えている。
見事な映像と練りに練られたプロットに満員の館内の誰もが画面にくぎ付けだった。現実を忘れただ映像の世界に入り込んでいた。その瞬間のことだった。一瞬我々は現実に引き戻されたが、すぐにまた映像の世界に引き込まれていく。違ったのは今までの透明な空気の館内がかすかに色づき温かみを帯びたことである。館内の皆が、人の温もりをもった者同士が一つの画面に見入られ同じ思いを持ってそこに存在する。演出とそれを見るものが一体になった稀に起こるその貴重な体験をしたのだ。
人々は16年間その謎を追い求めた。やっと謎が解けると興奮したのもつかの間、謎がすべて解明されるにはさらに6年の年月を要した。僕は幸運にも世界で初めてその謎が明らかにされるその場にいた。
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膝から下をもぎ取られたアナキンの体はずるずると溶岩の中にずり落ち、ついに火にまみれてしまった。ほぼまるこげとなり虫の息となったアナキンの体をシス卿が運ぶ。大がかりな手術がなされ、ついにその時がやってきた。ダースベーダが間もなく誕生する。
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最初の公開から28年を要したこの壮大なドラマの謎が明らかになる。
その日は僕の息子の誕生日だった。ちょうどその映画の世界初の公開日に渋谷シネマの予約席の一番いい席を息子のために確保した。だが、映画の世界に飲み込まれるにつれ、僕は一人の世界に入り込んでいた。そんななか、スクリーンの反射で明るくなった館内にその夫婦が目に入ってきた。寄り添うように時折互いに語り合いながら、その二人は遠目にも仲睦まじく見えた。映画が進行するにつれてひそひそと話合う光景からおそらく若き日にデートでスターウォーズを観に来たりしてたのではないか、とそういう想像を掻き立てる夫婦だった。
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突然画面が切り替わる。ダースベーダの誕生は闇のストーリーだ。だが僕らはもう一つのストーリーに気づく。大きな闇に比べればあるかないか分からないような存在だが、それは間違いなく光だった。二つの小さな光のストーリー。オビワンが取り上げた光にパドメが語りかける「ルーク」。二つ目の光に「レイラ」。
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その夫婦が「おおー」とため息とも歓声ともつかない声を上げたのはその時だった。館内の空気が変わった。本当に変わった。映画館いた全員の呼吸が一つになった。そしてパドメは息を引き取った。ヨーダの悲しげな表情が映し出さる。
映画が終わった後もしばらく余韻を楽しむようにほとんどの観客が立たなかった。世界で初めてその謎を見た証言者たちのミサのようだった。あの夫婦はその時何を思っているのだろう。ほとんど放心状態になりながらそんなことを思っていた。
「お父さん、そろそろ帰ろ」息子の声でやっと我に帰った。そのあとのことはよく覚えていない。
いろいろな意見があるだろう。だが僕にとってスターウォーズは普遍的な愛の物語だ。多大なる才能を持ったそして公的な使命を背負った青年が、一人の女性を愛したがために、悩み、恨み、嫉妬し、悲しみ、恐れ、そして闇に落ちしまった愛のドラマだ。
ほとんどの男は似たような経験を持つ。誰もが皆歴史に名を残すような大仕事を一度ならずは夢に見る。一生公に生きるか、矛を収め一人の女性を愛し家庭を持つのか。
女性から見れば必ずしも矛盾を生じない選択に男は一度は悩まされる。多くの人間に貢献する普遍的な愛と特定の人間に対する愛は、同じ愛といえども異なる質のものなのだろう。かたやエゴを排した愛とエゴの塊の愛。この二つの愛は共存しうるのであろうか? 結婚して何十年たってもいまだに分からない。
▼ コメント(9) - 新しい順
- 風の旅人さん、
返信が大変遅れてゴメンナサイ。ら
以下、確認頂ければ嬉しいです。
>>自分が何も見返りを求めず、勝手に体が動く、仕事をする、そんなときほど賞賛される。その逆もしかり。
我々凡人がそういう感覚を持つぐらいだから、才能があり、内から「必然的」に公に働く人間はなんの疑問も感じず、それでいて結果的に賞賛をあびるんじゃないか。
はたしてそれはエゴと言えるのか、と。
スゴイです!
そうなんですね!
男性はそんなにも強いのですね。
素直にカッコイイですね。
サバイバルスキルですね。
これでモテるのは、エゴでなく結果論ですね。「フリ」は何処かでバレますね。
私はきっと女性目線でのコメントになっていたと思います。
「守り、育てることが得意」とする女性は、仕事で成果を上げて、良かったと思っても、それのみを良しと感じ、満足する事はないと思います。
>>矛を収めるフリをするのはごく一部の男性でしょう。ほとんどの男は本当に矛を収めます
よく分かりました!
ありがとうございます。
男性をキチンと理解できていなかったですね。
>>ということは、「エゴを排した愛とエゴの塊の愛」は共存しないということになるのでしょうかね。
私はそう思のですが、そうではない事例がありますか?
分からないので、知りたいです。 - mayu-chanさん、おはようございます。
>まず、「エゴの塊の愛(自分の為の愛)」で公に働きかけた時、必ず色々な人が見ていますから、演じ切れなければ「公に生きる」事はできず最終的に自然淘汰されるでしょう。純粋と他人が感じられれば、人々が納得(賞賛)される考えます。
同感です。少なくても公に生きる人間、普遍的な愛を追求する人間はエゴは限りなく小さくなければならないと思います。
>>苦労したらした分、それに見合った(自分の考える)ご褒美が欲しくなるのではないでしょうか?
このことは男の友人とは何度も何度も話すんですが、結局結論はこうなんです。
自分が何も見返りを求めず、勝手に体が動く、仕事をする、そんなときほど賞賛される。その逆もしかり。
我々凡人がそういう感覚を持つぐらいだから、才能があり、内から「必然的」に公に働く人間はなんの疑問も感じず、それでいて結果的に賞賛をあびるんじゃないか。
はたしてそれはエゴと言えるのか、と。
>>「自分のエゴの為に、矛を収めるフリをして、一人の女性を愛し家庭を持つ事を演じる」のは、わきまえた人にはアリだと思います
矛を収めるフリをするのはごく一部の男性でしょう。ほとんどの男は本当に矛を収めます。まあこれがまた僕の次(かな?)の日記のテーマになるんですが・・・
>>一生公に生き、エゴを排した愛に生きるには、出家しかないと思います。
ということは、「エゴを排した愛とエゴの塊の愛」は共存しないということになるのでしょうかね。
- ジェト☆さん、おはようございます。
>>ふと思うのは、エゴがなくて人を好きになることがあるんですかね~。
エゴの無い行為や考えがあると思うので、エゴが無い愛もあるような気がします。
ふと思うのは普遍的な愛を求めている人間でも一人の異性を愛せることはできるけど、むしろ相手が耐えられないんじゃないかな、ということです。今回のテーマとは違うけど。
>>風の旅人さんの恋ユニレポート読みましたよ~!
男性と金の切り口、面白いです。そのうち乗っかります ^^
- 888さん、おはようございます。
>>しかし、究極の人のためが自己満足になるのか、究極の自己満足が人のためになるのか答えを探し中です。
とても興味深い視点、ありがとうございます。
おそらく「究極の人のためが究極の自己満足になる点」が存在し、意識するしないにかかわらずそこに向かって人は進んでいくのかと考えます。どちらが強いか、ということでそこに至る道が違うとでもいいましょうか・・・
アナキンについて言えば究極の人のために生きることが、母の死についてのトラウマをとることになり、ひいてはパドメを守りパドメとの愛を成就させることができたと思っています。
彼にはその才能があったのだから・・・ - すにいさん、おはようございます。
おそらく父上は私が見たご夫婦と同年代ぐらいだと思います。
初期スターウォーズがはやった時僕はまだ少年だったので・・・
>>私の名前はスターウォーズに由来します
素敵です。星羅なんて名前だとそれだけで惚れちまいそうです 笑
- 度々失礼します。
スターウォーズ!!
ますます、風旅さんは、父と同世代なんじゃないかと思えてきました。
父も大好きで、私の名前はスターウォーズに由来します(笑)
さすがに「レイラ」ではないですが(;^ω^)
父は愛についてなんか、考えてやしないと思いますが、
実は考えてたりして。なんて思ってしまいます。
名前の由来にもなってますが、
シリーズで見てない・・・。
やっぱり発表順に見るべきですか?
アニメもありましたよね、確か、評価高くなかったと思いますけど。
全作品網羅すべきでしょうか?
- 風の旅人さん
はじめまして。
興味深い深いコメントに
思わず投稿したくなりました。
>一生公に生きるか、矛を収め一人の女性を愛し家庭を持つのか。
>エゴを排した愛とエゴの塊の愛。この二つの愛は共存しうるのであろうか?
上部と下部をシンクロして考えました。
まず、「エゴの塊の愛(自分の為の愛)」で公に働きかけた時、必ず色々な人が見ていますから、演じ切れなければ「公に生きる」事はできず最終的に自然淘汰されるでしょう。純粋と他人が感じられれば、人々が納得(賞賛)される考えます。
それを元にすると
「エゴを排して、一生公に生きる」のみという選択は、人科という子孫繁栄の軸からみたら、我々にはキツイ選択と思います。
男性ならば、力の象徴として、"公の賞賛"はこの上ない至福を味わえると思いますが、個人に立ち返るとなると、それまでに苦し過ぎる孤独を味わうのですから、癒されないと続きません。人はそをなに強くないです。世間からの賞賛だけで満足できるとは思えません。
苦労したらした分、それに見合った(自分の考える)ご褒美が欲しくなるのではないでしょうか?
女性もご褒美(自分が欲しい物=エゴ )が欲しくて頑張るんだと思いますよ。
私には
「一生公に生きる」も「矛を収め一人の女性を愛し家庭を持つ」も公に対して、賞賛される"自分の見られ方"を考えての行動に思えます。
そして、私はこれを不純と感じませんし、悪でなく、むしろ当然と思う。
私も人に良く見られたいですし(メリットがあるから)幸せを感じたい(エゴを叶えたい)からです。
誰にもエゴはありますが、"エゴの塊"は悪と思います。
悪とは相互の利益はなく、自分の利益だけにしか興味のない状態です。
そうでないならいいと思います。
要するに、他人の不幸(求めていないものを押し付ける)に立った幸福はないと考えています。(当然人は離れ、助けて貰えなくなります)
「自分のエゴの為に、矛を収めるフリをして、一人の女性を愛し家庭を持つ事を演じる」のは、わきまえた人にはアリだと思います。
一生公に生き、エゴを排した愛に生きるには、出家しかないと思います。
それ以外は皆、エゴの愛です。
それに皆、折り合いをつけているのだと思います。
戦略家は研究熱心です。
熱心な人は他人にも利益を起こし悪意を持たせない努力もします。
また、どんな苦労をしてもそれが欲しいので努力するのです。
私には、それが健気で可愛く映ります。
私はそんな人になりたいです。
論点がズレてたらゴメンナサイ。
- おはようございます☆
おお…(;´∀`)
これは答えの出ない問題ですね。
ふと思うのは、エゴがなくて人を好きになることがあるんですかね~。
難しいことはわかりませんが、誰かを本気で愛した経験のあるベーダー卿の方が深みがあって魅力的に感じるってことですかね。
スターウォーズ見たくなりました…(*´ω`*)
P・S
風の旅人さんの恋ユニレポート読みましたよ~!
認知的不協和理論!興味深いです。
始めにあのクオリティーで出されたので、プレッシャーで泣きそうになりましたよ(´;ω;`)ウッ…
続き期待してます(`・ω・´)ゞ - はじめまして。
私は科学を仕事にしています。
con(共に)science(科学)
科学はconscienceの基に成り立っている。と思っています。
しかし、究極の人のためが自己満足になるのか、究極の自己満足が人のためになるのか答えを探し中です。
風の旅人さんの意図と違ってすみません。また読み切れていないことをお許しください。
率直に私の中でふと湧いたことはこのことでした。
探し続けます。
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