コモディティ化するAKB48――トップをとったアイドル集団が次にすることとは?
●渕上賢太郎(ふちがみ・けんたろう)博士
モテモテアカデミー及び夢を叶えるアカデミー主宰。数学、生命科学、行動経済学の博士号を持ち、人の心の動きを論理的に解明する。
山田君が芸能ネタを振ってくるので最近テレビをよく見るように。
●山田君
博士を慕う冴えない32歳。博士の教えにより、今年ついに彼女をゲット。彼女いない歴=年齢のモテない人生に終止符を打った中堅IT企業のSE。かつてはAKB48を熱心に追っていたが、最近はももクロにお熱。
※この記事は、2011〜2013年までの間に、MSNのニュースサイト・ドニッチにアップされたぐっどうぃる博士の記事の復刻版です。
山田君 博士!2月15日に発売されたAKB48のニューシングル「GIVE ME FIVE!」が、史上初の6作連続のミリオンセラーを達成したらしいですよ。ピンク・レディーが持っていた5作連続ミリオンの記録を33年半ぶりに更新ですって!すごいっすね(この記事は2012年に書かれた記事です)。
博士 友よー思い出よりー輝いてるー明日を信じーようーってやつだな。
山田君 は、博士がAKBを……!実はファンだったりするんですか?
博士 CMで流れまくっているから覚えてしまったんだよ。3社くらいのCMで同じ曲を使っているだろう。
山田君 CDが売れない時代にさすがのAKBですよね。去年のCDシングル年間売り上げのベスト5もすべてAKBですし、今や名実ともに日本のトップアイドルですね。
NTTドコモのCMでメンバーが過去の自分と“共演”してるやつがありますけど、あれを見るとみんな頑張ってきたんだなあとしみじみ……(涙)
博士 先週※2も言った通り、それはCDを売っているのではなく、「恋人に出来るかもしれない」という淡い期待をモテない男どもに売っているんだよ。
(※2「デキ婚で強行突破の赤西&メイサ、恋愛禁止のAKB、隠し通す福山雅治――なぜアイドルは恋人がいちゃいけないの?」という記事。まだ恋愛ユニバーシティではアップしていない記事)
発売元であるキングレコードのホームページを見ると、『数量限定生産盤のみ全国握手会イベント参加券1種ランダム(全2種)封入』『通常盤のみ生写真1種ランダム(全18種)封入』と書いてある。これが消費者のCDを買う大きな動機になっていることは間違いない。
付け加えると、確実にミリオンセラーになることが見込める商品なので、優秀な作曲家や編曲家が付き、さらにはPVにもお金をかけているだろう。
山田君 そうですね。PVの監督は『北の国から』シリーズの演出家をしていた杉田成道(すぎたしげみち)さんみたいです。
博士 トランプゲームの大富豪のように、勝ちはじめたら、戦略さえ間違えなければ、その勝ちは加速し、しばらく止まらない。社会科学の領域では、これをマタイ効果と呼ぶ。マタイ効果とは、新約聖書の「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」(マタイ福音書第13章12節)という一説から名付けられた効果で、AKB48のポジションまで成功すれば、勝ちが勝ちを呼ぶ。
山田君 なるほど~。
でも、実は、最近ちょっとAKBの勢いがダウンしたような気がしているんですよ。CDの売り上げはすごいし、バラエティにドラマにCMにとめちゃくちゃ出てますけど、なんだか、AKB48という存在に一時期ほどの熱量を感じないというか。ちょっと食傷気味というか。
博士 それは、“モテ”において深刻な事態で、そうなった原因が2つ考えられる。
これが今回のテーマだな。
山田君 是非教えてください。
博士 まず、ひとつ目がコモディティ化だ。
山田君 コモ‥ディティ化? コモディ・イイダと関係ありますか?
博士 そんな関東地方限定の変化ではない。コモディティ化という言葉は、マーケティングの世界ではよく使われている。ある商品やサービスに関して、いつのまにかそれと似たような商品がたくさん出てきて、差別化ができなくなってしまう現象を言う。
最初はあるメーカーの画期的な商品だったのに続々と類似商品が現れて、誰でも手に入れられるし、どこのメーカーのものを買っても一緒という状態になっていくことだな。
山田君 プライベートブランドなんかがそうですかね?
博士 その通りだ、ブルボンのアルフォートみたいなお菓子や、森永の小枝の類似品など、たくさんあるな。商品によっては安い上にオリジナルと味の区別がつかなかったりする。
この現象は商品やサービスだけでなく、コンテンツにも起こる。例えば、「羊たちの沈黙」という名作映画があるが、これが公開された時、ああいった猟奇的な殺し方や犯人犯のサイコなキャラクターが斬新で大ヒットした。しかしその後、似たようなテーマを扱った映画やテレビドラマが量産され、もはや猟奇殺人もサイコな犯人も目新しくもなんともない、よくあるネタのひとつになった。
山田君 テレビの“おねえ系タレント”“専門家集団”もコモなんとか化したって言えますかね?
博士 そうだ。そして、AKB48にもコモディティ化が始まってきているように感じる。
「会いに行けるアイドル」というコンセプトだったり、女の子を集団で見せるという手法だったり、競わせて盛り上げるという方法だったり、こういうものが一般化してきている。
例えば、ライブ重視の「ももいろクローバーZ」の台頭をはじめ、吉本興業もYGA(よしもとグラビアエージェンシー)というユニットを作りファン相手の撮影会や懇親会を開いているし、セクシー女優90名以上が在籍するユニットBRW108なんてのもあったりする。
山田君 詳しいっすね。博士に対する認識が変わりそうです。
博士 僕はあらゆる“モテ”を研究している。彼女たちも研究対象だよ。
他にもこの1~2年、「○○総選挙」とか、AKB48をもじったアルファベット3文字プラス数字のネーミングをいたるところで見るだろう。
内閣府が自殺対策の標語に「GKB47」という言葉を使い、非難殺到、撤回したのは記憶に新しいな。もともとのキャンペーンがシリアスなのでこういう言い方は不謹慎かもしれないが、お堅い役所までがAKBに乗っかり始めると、最先端のファッションが「ユニクロ」を経由して、「しまむら」に到達した時のような「行き渡った」感がある。
山田君 お役所に使われるとちょっとダサいものになった気がしますよね。
このコモなんとか化が原因で、AKBに以前ほどの勢いを感じなくなっているというわけですか。
博士 コモディティ化が起こったら、ビジネスは急速に終わりに向かう。牛丼の吉野家なんて悲惨だろ。商品が、コモディティ化ししてしまったら、ビジネスの旨味などほとんどない。働けば働くほど貧乏になったりする。モテの世界において重要なのは貴重さなんだが、貴重なものが流行ると、必ずコモディティ化が起き、貴重さがなくなる方向に傾くんだ。
山田君 止められないんですかね?
博士 それを止める方法の一つが、特許や版権だな。アップルとかディズニーとかが血眼になって訴訟するのも、その商品やサービスがコモディティ化しないようにしているんだろう。商品開発や、売れるために費やした投資を考えれば当然の権利かもしれない。まあ、議論の余地はあるが。
分野によっては、他の追随を許さないくらい市場のシェアを取ってしまう事がコモディティ化を防ぐ鍵になる。たとえばTwitter。Twitterが流行りはじめたらmixiはmixiボイス、アメーバーはアメーバなうと恥も外聞もなく、コンセプト丸パクリした。しかしtwitterはその追随を許さなかった。これは、“ネットワーク外部性”というメリットが生きるサービス独特のものかもしれない。
山田君 なんすか?それ?
博士 たとえば、周りの友達のほとんどが、Twitterを使っていて、類似サービスを使っていないとしよう。その場合、山田君が類似サービスでつぶやいても、誰も聞いてくれない。どうするかね?
山田君 Twitterを始めます。
博士 そうだろう。このように“多くの人が使う事で生まれる利益”を経済学の分野でネットワーク外部性と言う。さらに皆がTwitterを使っていれば、それを利用した二次的なサービスやアプリが生まれ、携帯電話やスマートフォンに標準装備されたりする。これもマタイ効果の一種と言えるかもな。このメリットを得るために、携帯会社同士で過酷なシェアの奪い合いがあったり、かつてアメブロが必死で有名人を集めたりしたのだと思う。そして、クックパッドの後追いをした楽天レシピ、Facebookの後追いをしたGoogleプラス。これらはネットワーク外部性を得られず、痛々しい結果になっている。楽天レシピは、負けた致命的な理由がもう一つあるが、それはまたいつか話そう。
ただし、羊たちの沈黙のようなコンテンツや、AKB48のようなアイドルグループには、特許や版権、そしてネットワーク外部性はあまり役に立たない。
山田君 やばいじゃないですか!
博士 さらに、モテにおいてAKBに起きている深刻な事態がもう一つある。スタンダード化だ。
山田君 スタンダード化!今度は何となくわかりますよ。王道になったってことですね。
博士 わかったからって食い気味に来なくていいよ。
彼女たちはもう、秋葉原発のよくわからない素人アイドル集団ではない。アイドルの代名詞と言える存在だ。トップに立つということは、もれなくその存在がスタンダードになったということだ。ハンバーガーと言えばマクドナルド、コーラと言えばコカ・コーラ、そういうことだな。
山田君 それって最強じゃないですか!
博士 以前、ある分野でシェアNo.1を誇る某ブランドの主任マーケッターに興味深い話を聞いた。それは、“ブランドなどがシェアNo.1になると、急速に価値を失うリスクを負う”ということだ。
山田君 どういう事ですか?
博士 AKBがスタンダードになったことで、AKBを応援している事が恥ずかしくなったり、わざわざ話題にしなくなったりする。40歳を過ぎたおっさんたちが、AKB48のメンバーの名前を言えるようになると、流行の先を走っている人たちに、「今更AKB」という心の動きが生じるんだ。そうなると、AKBが話題に上りにくくなる。流行の先を走っている人間が、世の中の話題を作っているので、とたんに誰も語らなくなってしまう。そうすると、ももクロだとか、きゃりーぱみゅぱみゅかとか、もっと無名で尖ったアイドルに話題が流れていく。その結果スタンダード化したブランドは魅力を失う。
山田君 なるほど~、コモなんとか化とスタンダード化、この2つの動きが今のAKBに起きているんですね。
博士 だが、“モテの魔術師”秋元康がその状況を手をこまねいて見ているわけがない。
山田君 秋元康さんは、“モテの魔術師”と呼ばれているんですか?
博士 我々モテ業界では密かにそう呼ばれている。
とにかく、トップに立ち、スタンダード化したものが、人気を維持するためにすべき典型的な戦略の一つが、“話題になる事をする”という方法だ。例えば、マクドナルドがクォーターパウンダーを出したり、日清がカップヌードルごはんを出したりするようなものだな。
先述の主任マーケッターが言うには、そういった仕掛けはユーザーに気に入れられようが否定されようが構わないんだそうだ。
山田君 えっ、否定されたらさすがにダメなんじゃないですか?
博士 スタンダード化した商品やブランドにとって、最も恐れるべき事は、話題にならない事らしい。とにかく、プラスの意見でもマイナスの意見でも、それが話題になり、今であればブログやSNS、Twitterなどで拡散され、さらにそれがニュースサイトやワイドショーに取り上げられることが重要らしい。
例えば、「○○の期間限定フレーバー、何か変な味だった」とかでも発信されればそれでいいんだそうだ。
こういう視点に立てば、少し前に話題になったAKBの「私と赤ちゃん作らない?」キャンペーンなんかも、AKB側にとってはいくら非難されても別に構わないものなんだな。古くはCGの江口愛実なんかもそうだろう。話題になりさえすればいい。AKBはこういう話題作りを実によくやっている。先日の脱退騒動すらその一環ではないかと思えるほどだ。
山田君 なるほど~。なんであんなに非難を浴びそうなことを次々やるんだろうと思っていたんですが、何を言われたって話題になれば別にいいんですね。
ということは……最近、僕は同じ秋元康さんがプロデュースする乃木坂46のPVに前田敦子が出ることを知って、「身内で何やってんだよw呆れるわ」っていうツイートをしたんですが……。
博士 呆れるほどに秋元康の魔術にかけられている人、ということになるだろうな。
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