恋愛における認知バイアスの罠 その四  私、雑魚モテするんですけど・・・




今回取り上げるバイアスを説明する前に、いくつか質問をしてみよう。あまり考えずに思ったまま答えてみて欲しい。

問1. 友人と一緒にランチを食べにレストランに入ったあなた。注文した鉄火丼はとてもおいしそうだ。早速陶器の醤油さしを取り上げ、マグロの刺身の上に醤油を・・・ところがそれはソースだった。あなたはそのときどう思っただろう。

問2. ある有名がスポーツ選手がある大会で優勝を遂げた。ところがそのスポーツ選手は通常行われる試合後の優勝会見を行わず、家に帰ってしまった。彼は何度もいろんな大会で優勝している実力No1の選手であった。あなたは彼をどう思うだろう。

問3. 「好きじゃない人からはモテるのに、好きな人からは好かれない」と言う女性をよく見かける。あなたはこのような女性をどう思うだろうか。

問4. lineの機能のひとつに「知り合いかも」というものがある。相手が自分を友達に追加した場合、あるいはシステムの機能により自動的に行われる場合、その双方でこの機能が発動する。ある女性が新規にlineに登録した際、自分の昔の上司の「知り合いかも」の表示に嫌悪感を覚えた。自分の携帯に残っていたその昔の上司の電話番号から自動的に相手の上司に自分の「知り合いかも」が表示されたらしい。彼女の言い分によると、もう仕事でもプライベートでも関係ない上司が「知り合いかも」から「友達追加」したことが許せないらしい。あなたは彼女に共感するだろうか。

問5. Yahooの知恵袋にいじめについての下記のような質問があった。
「嫌がらせを受けている人、いじめを受けている人を見たら、その人になにか原因があるのだろうと無意識に考えてしまうのが人間の常ですよね?」
それに対し次のような回答がついた。
回答1「いいえ。なぜそのようなこと(嫌がらせやいじめ)をするのかを疑問に思うのが人間の常です。」
回答2「私は原因があるのが普通だと思いますよ(;・∀・) 無意識に考えてしまってるってコトですよね。いじめを受けてる人が悪いとかじゃないですけど。 原因の無いいじめもあるでしょうが、そっちのがかなり少数派のハズ;」
あなたはどう考えるだろうか。

問6. 今日は彼氏がうちに遊びに来た。何度もうちに来ているのでどこに何があるか大体分かっている。コーヒーが飲みたいというので、とりあえずドリップコーヒーをセットしお湯だけ注いだ。コーヒーカップに注いで砂糖とミルクは自分でやるように彼に言った。彼はその通りにし、コーヒーカップを持って私の隣に座った。コーヒーを一口飲んだ彼は、「うわっ、しょっぺぇ。砂糖と塩間違えたかも」と台所にコーヒーを捨てにいった。
あなたは彼をどう思っただろう。

行為者、観察者バイアス


根本的な帰属の誤り」という厳めしい名前でも知られているこのバイアスは一言で言えば、「自分には優しく他人には厳しく」というものである。以下の例が説明としてよく用いられる。

『アリスは、ボブが石につまづいて転ぶのを見ました。アリスは、それはボブの運動神経が悪いか、ぼんやりしているかだからと思います(個人的/属性帰属)。でも、アリスは自分が同じ石につまづいたら、なんでこんなところに石が落ちているのかと文句を言うのです(状況)。』

要するに、自分の身に起こったことは状況のせい(外的要因)にするのに、それが他の人のところで起こった場合には、その人個人の性格の問題(内的要因)だと認識してしまう、というものだ。

観察者バイアス
さて先に挙げた問2について考えてみよう。「何度も優勝しているし今更喜びも大きくないのだろうが、礼儀を欠いている」「実力No1ということで思い上がっている」「決勝で負けた選手に失礼だ」という感想が多いのではないだろうか。

実はこの話は最近実際の起こった事例である。「ああ、あのことか」と気づいた方もいるだろう。優勝会見キャンセル当日、マスコミもネット上の意見もその選手に対する性格や気質に対する批判がメインで、更には天狗になっている、はたまた人種の問題等にまで言及され、半ば叩かれている状態だった。ところが数日後これらの意見は一転する。
その選手がなぜ優勝会見を行わなかったかの理由をブログに打ち明けたのである。身内の不幸のため優勝会見で喜びを出す気持ちになれなかった、というのである。内容が女性の共感を呼ぶものであったため、特に女性からの同情そして賞賛の声が上がった。

何故このように180度彼の行動に対する意見が変わるのであろう。何故最初から彼の行動には何か背後に理由があるはずだと考えないのだろう。観察者は他人の行動を「その人個人の性格や気質」の問題であると無意識のうちに判断する傾向にある。これが観察者バイアスである。

恋人が約束をキャンセルしたとき、遅刻したとき、嘘をついたとき、何かを隠していた時、大声を張り上げた時、その他、特に自分にとってネガティブな行動をとったとき安易にその人個人の性格や気質のせいにする。覚えはないだろうか。

行為者バイアス
次に問3、問4について考えみる。
「好きじゃない人からはモテるのに、好きな人からは好かれない」 よく聞く話である。このことに関してはこのサイトでもしばしば話題になっている「恋とセックスで幸せになる秘密」にいろいろと書いてあるが、ここでは認知バイアスの観点から考えてみる。

「好きじゃない人からはモテる」ことを「雑魚モテ」と言うらしい。ちょっと品位の無い言葉だと思うのは私だけだろうか。自分がどうでもいい相手は「雑魚」扱いである。要するに迷惑だし、キモいということだろう。気持ちは分からないでもない。しかし良く考えてみよう。この女性「好きな人からは好かれない」のである。その「好きな人」から見れば自分もまた「雑魚」なのだ。迷惑がられ、キモがられているのになぜ気づかないのだろう。行為者自身は自分の行動やその結果が自らの性格や気質によるものと考えない。そしてこう考える「運が悪い」「タイミングが悪い」「私の魅力が分かっていない」。そう行為者バイアスにより「外的要因」を理由にする。

lineの問題はどうであろう。何を隠そうこの1年半の間にこの手の愚痴をなんども聞かされた。好ましくない相手からの「知り合いかも」表示が鬱陶しいというのだ。実は最初この話を聞いたときてっきりlineの機能についての文句だと思った。ところが相手が「友達追加」をする神経が許せないらしい。ご存知のかたもいると思うが、自動で「友達追加」が起こるケースは知られているだけで20通り以上もあり、能動的に友達追加するよりもはるかに確率が高い。
しかしその事実を知らないまでも次のことは言えるのではないだろうか。相手が「友達追加」をするにはその相手に自分の「知り合いかも」表示がされているということだ(それ以外のケースもあるが極めて少ない)。何故、好ましくない相手からの「知り合いかも」表示に対して文句をいいながら、相手に自分の「知り合いかも」表示がされていることの理不尽さに気づかないのか。何故自分の「知り合いかも」表示はlineの機能のせいだから仕方ない、と考えられるのだろう。

行為者は他人からネガティブに映る行動を自分のせいにはせず、いたしかたない外部の要因にする傾向にある。ときにはネガティブな行為自体の自覚すらない。これが行為者バイアスである。

もう一つの要因、そして対処方法


行為者、観察者バイアスにはいろいろなバリエーションがあるが、一つだけ御紹介しよう。

過度の責任帰属
問5のケースと考えみよう。あなたはどう考えるだろうか。

いじめはそれをする行為者が悪い(内的要因)、いじめが生じる社会風潮、受験勉強主義によるもの等々(外的要因)の他に、いじめられる方にも問題があると考える人も少なからずいるのではないだろうか。これが高じて被害者に多くの原因があるとすることを過度の責任帰属、という。詐欺にあう被害者に責任がある、という意見や痴漢の原因を挑発的な服装をする女性のせいにしたりするのもこれに当てはまる。
恋愛においてはこの過度の責任帰属を自分に向けるケースがよく見られる。恋愛がうまく行かなくなったのは自分のせいである、というものである。恋愛や人間関係がうまく行かなくなった原因は様々である。自分が原因の場合、相手が原因の場合、外的な要因の場合、そして多くはそれらの原因がいくつか重なって、である。ところが過度の責任帰属のバイアスに陥っている場合、とにかく自分が悪かったの一辺倒になってしまう。冷静な分析の結果でないため、その後の恋愛はうまく行かない。なぜならばこのバイアスに陥っている人の特徴は「自分が何とかすれば問題は解決する」と勘違いをするからだ。その結果、問題の原因を知らないまま間違った行動を繰り返し、事態をより一層悪いものにしてしまう。

恋愛を含め人間関係がうまく行かなくなった場合、その原因を相手の性格や気質のみや、逆に自分の性格や行動の間違いだけに思い込むのは止めた方がいい。その両方に原因があったり、外的要因(仕事によるもの、家族の不幸等によるもの、病気等によるもの)が絡んだりいろいろなケースを考えてみることだ。そこまで冷静になれない、というかもしれない。いや逆に冷静になるためにも一つの原因に固執するのをやめることである。

この行為者-観察者バイアスを避けるための方法があるのでご紹介しておこう。次の3の視点をもつことで、問題の原因について誤った認識を避ける可能性が高まると思う。

一貫性 - その人物は、ある対象に対して、どんな状況でも同じようにふるまうか
(例)いつもどのような状況でも恋人が高圧的な態度を示すのか、単にこだわりの強い分野に対してだけなのか

合意性もしくは一致性 - 他の人は、その対象に対して、同じように感じているか
(例)他の人も彼は嘘つきでだらしない、と言うのか、他の人は彼を正直できちんとしている人だというのか

弁別性 - その人物は、異なった対象に対しても、同じようにふるまうか
(例)元カノに対する行動や友達に対しても暴言を吐くのか、それとも自分だけに暴言を吐くのか

特定の状況、一時的なものだけで相手を判断せず、他の人の意見も聞き、自分だけではなく他人に対する行動も観察し、よくプロファイリングすることは非常に重要となる。

判断力」の著者スコット・プラウスは、最終章で次のように述べている。

「あらゆる場面に通用する万能のバイアス除去テクニックこそないが、別の観点を考慮に入れることが、しばしば判断と意思決定の質を高めることは確かだ。」

今回のバイアスは恋愛当事者に対して重要であると同時に恋愛相談に対する回答者にも重要である。なぜならば、非常に情報量の少ない中でその原因の特定に対し偏りがちになりやすいからである。観察者である回答者は問題の原因を個人の性格や気質に帰する傾向がどうしても強くなる。問題を抱えている恋愛当事者の過度の責任帰属を指摘するのはいいとしても、だからといって安易にその原因を相手(特に相手の男性)のせいだけにするのは考え物である。常に内的要因、外的要因の可能性を考えつつ、一貫性・合意性・弁別性を検証できる情報を質問者から引き出す工夫が必要となる。そのためにもレスの中に流れと異なる意見が出ることは非常に好ましいと言えるだろう。

最後に問1と問6について考えみよう。

もし問1で「醤油とソースが紛らわしい。この店はサービスが悪い」と考え、問6で彼氏に対し「ばかだなあ」とか「どんくさいなあ」と感じたならば、あなたは「行為者-観察者バイアス」に陥りやすい傾向にあることを肝に銘じた方がいい。


認知バイアスは経済活動に応用されることが多い。他の恋ユニレポートにもあるように経済活動における心の動きと恋愛のおけるそれとは似通っている。そこに利害関係が存在しているからだろう。次回は利害関係という観点からのバイアスを取り上げ恋愛事例に適用してみようと思う。

次のレポート:恋愛における認知バイアスの罠 その五  私、彼じゃないとダメなの
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