恋愛における認知バイアスの罠 その一 認知的不協和
だってあのとき「こうする」って約束したじゃない!
メールでもラインでも普段の会話でもいい。彼氏との間でのこのようなやり取りをした経験があなたにもあるのではないだろうか。「ねえねえ、明日何時にどこで会う?」
「えっ、何?」
「この前約束したでしょ、毎週土曜日は会うことにする、って」
「ああ、そうだっけか...」
「そうだっけって、ちゃんと納得して約束したよね」
「いや全然納得はしてないよ、できれば土日はゆっくり休みたいし、
自分のことでしなきゃないこともいろいろあるし」
「日曜自由なら土曜日は会ってくれる、って言ったじゃない」
「あのときはそう思ったし、そう言ったけど、よく考えたら大変なんだよ」
「でも笑ってちゃんと『分かった』っていったじゃない!」
彼との楽しい時間を期待していたあなたは途方にくれる。やがて沸々と怒りと悲しみが湧いてくる。約束を守ってくれなかったこと、いや約束そのものを覚えていなかったこと、そして彼の開き直った態度への嫌悪感。そして徐々に失われていく信頼感、過去にもこんなことがたびたびあった。もういい加減愛想がつきてきた・・・
認知バイアスとは
人は判断を下したり意思決定をするときに、多くは直観や感覚を頼りにする。一方直観や感覚では解決できない場合、論理的な思考に頼る。問題なのはこの直観や感覚がある決まったパターンのエラーを起こし、さらに人はそのことに全く気付いていない、ということである。この直観や感覚が起こす系統的なエラーを認知バイアスと呼ぶ。冒頭のケースも学問的には認知バイアスと同じカテゴリに属する「認知的不協和」という広く知られた問題として見ると問題の核が浮き彫りになってくる。この例に限らず数々の恋愛における問題は認知バイアスという切り口で分析してみると納得できることが多い。我々は知らず知らずのうちにたくさんの誤りを起こしている。そしてそのことに気づかないがゆえに互いに理解し合えず、勝手な思い込みで相手を解釈し、一方的な押し付けを行う。やがて二人はすれ違ったまま、お互い自分が悪いとは露とも思わず破局に向かって落ちていく。
もちろん全ての原因が認知バイアスにあるのでは無い。しかしどうやらかなり大きな役割をしていることは確かだ。認知バイアスの存在を知り、それがどういうものであるかをを学ぶことには恋愛において大きな効果を上げると感じている。端的に言うと次の即効性のある二つのメリットある。
1. 自分の犯しがちな誤りに気付く可能性が高くなる
2. 相手の不可解な行動を理解できる可能性が高まる
更には次のようなことも可能となる。
3. 認知バイアスを利用して、相手をコントロールできる。
相手を操れると誤解してはいけない。認知バイアスによる相手の誤りを理解し、それを許るせることができて初めてこの域に達する。誤り・過ちを犯すべき存在に対しての広くそして深い愛が前提となる。
結局変わるつもりは無いんだよねぇ --- 認知的不協和で説明がつく男性心理
さて冒頭の会話について考えてみよう。ビジネス、とくにマーケティング分野で仕事をしている人には同じみな言葉であるこの「認知的不協和」はまた、恋愛の中でも非常に重要な役割を担っていると思われる。冒頭に挙げたすれ違いの会話は「認知的不協和」に端を発している。
「認知的不協和」とはざっくりと言えば、「これまでそうあった自分そしてこれからもそうありたい自分」と自分の外からもたらされる「それとは違うあるべき自分」との間に生じる矛盾による不快感のことである。「あるべき自分」は社会通念であったり常識であったり、恋愛においては「彼氏、彼女」からの要求もしくはダメ出しだったりする。
まず「認知的不協和」について全く知らない女性側からのこの問題がどう見えているか考えてみよう。これは簡単だろう。「毎週土曜日は会うことにする」かどうか2者択一という「問題」を提起しており、答えは「毎週土曜日に会う」か「毎週土曜日に会う約束はできない」かどちらかになる。要するにYESかNOかの問題であり、YESと彼氏が答えたならば要求を受け入れ、「毎週土曜日に会う」約束をした、と考えるのである。これは至極まっとうな考えと思われるし、彼があとになって「そんなつもりはなかった」と言っても納得できない彼女に分があると多くの人は感じるであろう。
ところが、である。このとき彼の心の中は全く違った風景が映し出されている。そもそも彼は彼女からの要求をYESかNOかで答えるべき問題とは認識しようとしない。彼女の要求により「認知的不協和」の中に落とし込まれた彼が真っ先に解決すべき問題と考えるのは「いかにこの矛盾から生じた不快な状況から脱すべきか」なのである。
「認知的不協和」の矛盾にどうやって折り合いをつけるか、例えば次のような選択肢が浮かぶ。
1) 自己の態度を変化させる
2) 他者の態度を変えるよう働きかける
3) その問題自体を忘れてしまう
4) その問題を自分とは無関係にしてしまう
5) それぞれの認知に格差をつける
6) 認知に条件を設ける
7) ....
恋愛に非日常性と癒しを求める男は1), 2)の2者択一となるような問題を抱える選択肢はまず選ばない。ほとんどが3)~のように問題にすらならない選択肢を選びこの矛盾を乗り切る。
冒頭の彼は例えば6)を選び心の中でこう折り合いをつける。
「仕事で疲れていないなら、まあ毎週会うことにしようか」
そして矛盾から逃れた安堵からにっこり微笑んで彼女にこういうのだ。
「分かった。お前のいうように頑張って土曜日会うことにするよ。」
不思議ことに彼はなぜか毎週土曜日は疲れて外に出る気がしなくなる。
あるいは4)を選び心の中でこう言い訳をする。
「俺は彼女にできるだけ時間を使いたいのだ。でも仕事が忙しいときは仕方ない。俺の問題では無い。土日も疲れほど忙しい仕事を押し付けている会社の問題だ。」
またしてもにっこり笑いこう言うのだ。
「今のプロジェクトが一段落したら時間に余裕ができるから、そしたら毎週土曜日会えるよ」
そしてプロジェクトは永遠に一段落することは無い。
してはいけないこと、すべきこと
ここまで読んだあなたはこう思うに違いない。「彼の状況のことは理解できたけど、結局私の要求は叶えられていない。どうすればいいの?」
まず第一に状況を不必要に悪化させてはいけない。相手に悪気が無く、全く罪の意識が無いのであるからそれを勝手な思い込みで指摘したり非難したりすることは百害あって一理無しである。こういうときには恋愛においては常に有効な方法がある。
「何もしない」である。言い換えれば「何もしない」ことをする、のである。
彼は自分は間違ったとは思っていないが、あなたががっかりしたことは良く分かっている。この埋め合わせをなんとかしなければならないと、心のどこかに刻まれる。ある段階を超えて男のケアスキルが必ず刺激される。人の心や変え行動を変えるには拙速であってはいけない。辛抱強く相手が自ら自発的に変化するようにひとつひとつ積み上げていくのである。恋愛において時間軸の長い男性にこの方法は実に有効である。
ひとつだけ注意したいことがある。それはここで扱っているケースはあくまで恋愛という枠の二人の間のやり取りであるということである。世間一般の倫理やルールに反したり、重大な損害を与えるようなケースとは分けて考えなければいけない。
例えば、浮気問題や金銭問題が絡んでいるような、相手にどうしても深刻な問題として認識してもらう必要があるケースもある。そういう場合には別な方法を取る必要がある。ここまで書いた内容をおさらいする意味でもご自身で考えてみて欲しい。
問1. あなたの要求に対し「認知的不協和」に陥って二者択一の選択を逃れようとすしている相手にYESかNOか選択を認識させるにはどうすればいいでしょう。
(ヒント:博士のプロトコルに答えがあります)
ついでに次の問いについても考えてみてください。
問2. 「認知的不協和」という状態があることを知った今、もしあなただったら冒頭のようなケースの場合、短期的にそして長期的にどう行動するでしょう。
次回はまた別な認知バイアスをご紹介しよう。ここでの恋愛相談をの相談主は大方この認知バイアスによる系統的な過ちを犯している。それほど恋愛においては重要な役割をはたす認知バイアスである。
次のレポート:恋愛における認知バイアスの罠 その二 私の彼「去る者追わず」タイプなの