恋愛における認知バイアスの罠 その三  男は浮気する生き物だから 前半



バイアスにおける癌細胞


あなたは今離婚しようかどうか迷っている。誰かに相談しようと考えている。さて、あなたは次のうちどの女友達に相談するだろうか。

1) 結婚生活が順調で幸せな女友達
2) 離婚しようか迷ったけどやめた女友達
3) 実際に離婚した経験がある女友達

次の問題はあまり考えずに直観で答えてほしい。

A,8,3,d という4枚のカードがある。
ここで、「カードの表がローマ字の大文字ならば、裏は偶数である」という命題を調べるためには、少なくともどれをめくればいいか?

二つの問題ともあまり迷わず答えが出たのではないだろうか。

前の2回のレポートで認知バイアスが恋愛に及ぼす影響を書いてみた。認知バイアスによる誤りは日常生活でも頻繁に現れる。誤りの多くは最初は些細なもので時間と共に補正される。同じようなことは人間の体でも起こっている。例えば遺伝子は様々な要因で傷つき、エラーを起こしている。このエラーを最小限に抑えるのがアポトーシスという細胞自らが一定期間の間に自殺するという機構である。エラーが起こった細胞もそのうち消えてなくなってしまう。

ところがこのアポトーシス自体がエラーを起こすと厄介なことになる。細胞は死なずコピーを繰り返すために増殖し続ける。腫瘍である。エラーが起こった細胞にこのアポトーシス自体のエラーが重なるとエラー細胞が増殖することになる。エラー細胞が他組織に浸潤する性質持つ場合、転移をする。悪性腫瘍、いわゆる癌である。

認知バイアスの中にも、最初に生じた些細な誤りの補正を妨げ逆に強化し確信に至らしめる癌細胞のようなバイアスが存在する。そのバイアスは人間の迷いや不安をエネルギーにしている。恋愛に迷いや不安はつきものである。恋愛においてこのバイアスは嫌というほど顔を出す。とても性質の悪いバイアスである。

博士のコラムでも言及されている「確証バイアス」と呼ばれるものである。

確証バイアス


確証バイアスおよびそれに関係するバイアスをまとめて以下のようなものである。

① 長年の思い込みによって作られた固定観念 
② 自分の考えを正当化するための情報だけを集め補強する志向
③ 自分の考えを強固なものにするための選択行動

①は例えば「男は浮気する生き物である」や「A型は几帳面」といったものがある。「関西人は図々しい」とか「嘘をつくときは右上を見る」と言ったものもある。いずれも統計的には何も証明されておらず、しかしながら何となくそういう気がする、いわゆる思い込みである。ところが人はこれを信じてしまう。

例えば血液型性格診断によって「A型は几帳面だ」と思っていると、A型の人の几帳面な行動ばかりに注目し、A型の人がずぼらな行動をしたときにはほとんど意識を向けなくなる。さらに、同じようなバイアスは記憶の方でも起こり、A型の人が几帳面な行動をしたときばかり覚えていて、ずぼらな行動をしても記憶に残りにくいという現象まで起こってしまう。かくして思い込みのレベルの話は「確信」や「常識」のレベルになってしまう。

②は①に近いのだが初めからある固定観念がもとになっている場合と違い、迷いや不安から生まれたある疑念が確信に変わっている過程の中で生じるものである。

一貫性バイアスで例に出したクリーンの香水を買ったところを見られた彼氏のケースではこうなる。

○ 最初は「あれっ」と思う程度だった
○ 友人の「怪しんじゃないの」という言葉で他の女性の存在がちらつく
○ 出張の件といい、何か私に知られては都合の悪いことをしているに違いに無い
  --> 浮気を疑う
○ 今日の電話はやけに優しかった。罪悪感のなせる業か
  --> やはり浮気か
○ そういえば最近スキンシップが少なくなった
  --> 浮気相手で満足しているに違いない
○ 「男は浮気する生き物」というタイトルの記事にあった男の行動パターンが彼にもあてはまる
  --.> 浮気に間違いない

かくして彼女の心の中では彼の浮気は紛れも無い事実となる。

このパターンは逆の結論「浮気なはずがない」という確証にいたる過程でも同様に現れる。迷い、不安は白黒をつけたい、はっきりさせたいという気持ちを促す、それが確証バイアスの温床になる。

選択行動自体の誤り


③は情報を選択するための行動がすでに確証バイアスを引き起こす行動になっていることを意味する。逆にこの行動を補正することにより、確証バイアスの罠から逃れる可能性を高めることができる。

最初にあげた離婚について誰に相談するか、のケースを考えてみよう。多くの人は「3) 実際に離婚した経験がある女友達」を選んだのではないだろうか。離婚プロセスの事務手続きについて相談するならいざしらず、離婚するかしないか悩んでいることに対する相談相手としては必ずしも正しいとは言えない。

理由の一つ目は離婚経験者に選択後の認知的不協和が働くからである。離婚経験者は自分の選択が正しいと思う心理が働く。相談を受けても「離婚して不幸せになった」とは言いずらい。
二つ目の理由は仮に「離婚して不幸せになった」というアドバイスをされてもそれは離婚すべき、という命題に対する反証にはならないからである。「離婚すべき」の反証には「離婚しない方が(しなくても)幸せ」という事実が必要になる。

したがってこの種のアドバイスには必ず「3) 実際に離婚した経験がある女友達」だけではなく、「1) 結婚生活が順調で幸せな女友達」や「2) 離婚しようか迷ったけどやめた女友達」にも意見を求めるべきである。

この選択行動自体の誤りは論理問題でも見られる。

A,8,3,d という4枚のカードの問題である。直観ではほとんどの人間が「A,8」と答える。じっくり考えると分かるが正解は「A,3」である。論理学に比較的強い理系男子・女子でも間違う。理屈では分かっていても「対偶」と「逆」を取り違えてしまうのだ。正解した人でも直観では「何かおかしい」と感じその後論理的思考で裏付けしたというところではないだろうか。

それほど入手すべき情報の選択は難しい。迷いや不安にあるところではほとんど正しい情報の選択は期待できない。そして「確証バイアス」はますます威力をふるうことになる。


内容が多少難しいうえに長くなるため、この確証バイアスについては2回に分けることにした。後半では、この確証バイアスの弊害、とくに自分自身に向かった時の弊害、そしてこの確証バイアスにできるだけ陥らない方法をレポートする予定である。

次のレポート:恋愛における認知バイアスの罠 その三  男は浮気する生き物だから 後半
前のレポート:恋愛における認知バイアスの罠 その二  私の彼「去る者追わず」タイプなの

風の旅人 さんの他のレポート

会員登録
閉じる
必須です 3文字以上必要です 16文字以内にしてください 半角英数字のみです 既に登録済みです
OK!
必須です 6文字以上必要です 16文字以内にしてください 半角英数字のみです
OK!
必須です 3文字以上必要です 16文字以内にしてください
OK!
必須です 正しいメールアドレスを入力してください 既に登録されています
OK!
 /  / 
「利用規約に同意する」にチェックがありません
OK!
簡単ログイン -外部サービスでログインもできます-
Facebook Twitter Google+ LINE
簡単ログイン -外部サービスでログインする-
Facebook Twitter Google+ LINE