「家政婦のミタ」大ヒットのメタ的な理由

更新日 2019-07-12 18:05  公開日 2015-03-06 12:00
「家政婦のミタ」大ヒットのメタ的な理由
登場人物

渕上賢太郎(ふちがみ・けんたろう)博士
モテモテアカデミー及び夢を叶えるアカデミー主宰。数学、生命科学、行動経済学の博士号を持ち、人の心の動きを論理的に解明する。

山田君
博士を慕う冴えない32歳。博士の教えにより、彼女いない歴=年齢だったモテない人生に終止符を打った中堅IT企業のSE。流行りものに弱い。

※この記事は、2011〜2013年までの間に、MSNのニュースサイト・ドニッチにアップされたぐっどうぃる博士の記事の復刻版です。

山田君 博士!今週の「ミタ」見ました?
(※この記事は、2011年に書かれた記事です)

博士 みた?何のことだ?

山田君 えーっ博士、「ミタ」を見てないんですか?
松嶋奈々子主演、視聴率29.6%を記録して、今年のドラマ視聴率ナンバーワンに躍り出た、あの「家政婦のミタ」ですよ!「ミタ」見てないなんて、信じられないっす。

博士 ええいっ、ミタのミテないのとうるさいわっ!
僕は私はモテや流行を研究するのが仕事だから、一応チェックはしている。

山田君 あれは流行りますよね!!僕も最初は、なんとなく見たんですが、見てみると面白くて!それに引き替え、キムタクの南極大陸は気の毒ですねえ。旬の芦田愛菜ちゃんを入れ、脇には堺雅人、香川照之、柴田恭平と実力派がゴロゴロ、20億円とも言われる製作費をかけて大規模ロケをして視聴率15%程度。

なんで、南極が流行らず、ミタが流行ったんでしょう?

博士 何故だと思う?

山田君 うーん。そうですね。僕が分析するに、南極大陸は、キムタクは相変わらずのヒーロー演技だし、ストーリーもちょっと退屈なんですよね。「今だっ、泣けっ」と言わんばかりの大げさな演出もうざいですし。

ミタの視聴率が高いのは、言われたことをなんでもやっちゃう家政婦が、仏壇燃やしたり、子供を刺そうとしたり、とんでもないストーリーなんですけど、笑えるところも泣けるところもあって、キャストもはまってることとか、先が読めないことが気になるとか、裏にある深いテーマを前面に出さないのが良いとか、絆がテーマだから今に合っているとか、ですかね。

博士 3行で言ってみろ。

山田君 
南極大陸は脚本とキムタクが退屈。
ミタは、脚本と松嶋が素敵。
つまりはそういうこと。

博士 ちがうな。

山田君 えええ!!! じゃあ、博士の分析を教えてくださいよ。

博士 僕の分析か? 「たまたま」だ。

山田君 たまたま??

博士 たとえば南極大陸は、山田君が言った理由以外に、裏番組の女子バレーの影響とか、日曜日の夜にしては題材が重すぎたとか、ストーリーが分かっている内容だから最初と最後だけ見れば良いとか。まあ、世の中で言われている理由がたくさんある。実際には、それら以外の因子もたくさん働いているだろうし、逆向きの因子、つまり流行らせる方向の因子もあっただろう。山田君があげた理由のいくつかは視聴率にほとんど影響しなかったかもしれない。「家政婦のミタ」も同様のことが言える。

実は、世の中の流行は山田君が考えるほど単純じゃない。時間軸の中で沢山の因子が互いに絡み合って、それぞれが影響し合って起こるんだ。

「絶対成功する企画」について話した時にも触れたが(9つの定理第4回参照 http://u-rennai.jp/contents/column/690)、何が当たって何が当たらないかなんて、誰にもわからない。

今回、「ミタ」の脚本家で「女王の教室」(日本テレビ2005年7月-9月土曜9時放送)も書いた遊川和彦の手腕に注目が集まっているが、この人は深田恭子主演の「学校じゃ教えられない!」(日本テレビ2008年7月-9月火曜10時放送)で1クールの平均視聴率6.4%という超低い数字を叩きだした人でもある。

ドラマを作っている人は皆、視聴者が求めているものを真剣に考えて、一生懸命作ってるだろう。でも、当たったり外れたりする。そんなもんだ。

山田君 「たまたま」かあ。

博士 上から目線で申し訳ないが、ミタも南極も、内容としてはそれなりだったと思う。
すごく面白いわけでもないし、面白くないわけでもない。こう言った方がよいかもしれないな。「凄く面白い」と言う人がいる一方で、「そうでもない」と思っている人もいる。

このような作品が流行るかどうかは、株の上下のように、不確定な多くの要因が互いに干渉し合って決まる。従って、株の上下と同じで、“偶然”を扱う学問の領域でしか語れない。

「たまたま」というのは、とても興味深いテーマだ。レナード・ムロディナウ著『たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する』が、一般向けの名著と言えるから読んでおくと良い。

その本のAmazonのページに書いてある内容紹介を抜粋しよう。

「・空前の大ヒット映画が誕生する
 ・ひいきのチームが20連敗する
 ・宝くじで連続当選する

……などなど、「偶然」が支配するこのランダムな世界では、こんなことは当たり前。

でも、われわれ人間は、こういう出来事に出会うと、
・すごい映画を作った人は、すごい才能を持っている
・監督が悪いから20連敗なんてするのだ
・連続で当たるなんて、今私はツイている!

……ついついこう考えてしまう。
でも確率などの力を借りてよく考えると、
監督の力に関係なく20連敗することは、十分起こりうることなのだ。」

山田君 じゃあ、僕が脚本を書いてもミタみたいに大流行することもあるということですか?

博士 それはない。

山田君 えええ!!!

博士 確か、以前、取り上げたことのあるマルコム・グラッドウェル著『天才! 成功する人々の法則』に、書かれているたと思うのだが、過去のノーベル賞を受賞した科学者を見てみると、ある程度以上の大学を卒業している人、ある程度以上のIQを持つ人しか取れていない。

ただ、IQ130以上であれば、130であろうと、180であろうと、ノーベル賞を取れるかどうかにそれほど差が無くなる。また大学もある一定ランク以上なら、ノーベル賞を受賞できる確率に差がみられなくなる。

これを脚本家に当てはめれば、こうだ。流行るドラマは、ある程度以上のスキルや能力を持つ脚本家が必要だが、それさえ満たしていれば、流行る、流行らないとは関係ないということなんだ。

山田君 つまり、「家政婦のミタ」は、ある程度能力のある人が脚本を書いて、それが「たまたま」流行っただけということですかね? 

博士 そうだ。そして南極大陸は、ある程度能力のある人が脚本を書いて、それがたまたま、大した視聴率にはならなかったということだけだ。

山田君があげたさまざまな要因は、全く意味がないと言って良い。何故なら、それらのことを知っていても次に流行るドラマは作れないからだ。次にまた無数の流行る理由と流行らない理由が、流行ったあと、流行らなかったあとに語られるのだろう。

山田君 「たまたま」かあ。なんかそれだけだと寂しいっすね。もっとなんかないっすかね?

博士 欲しがり屋さんだな。
その流行る、流行らないに拍車をかけた要因なら、一ついえることがある。

山田君 おっ、さすがですね!博士。
きっと博士のことだから僕が考えもつかないような視点で、ドラマを見てるんだろうな~。いったいどんなすごい理由なんですかっ?

博士 それだよ、山田君。

山田君 えっ?どれ?

博士 今、君は僕に「期待」しただろう?
「博士ならきっと面白い要因を言ってくれる。それも自分が考えたことがないほどびっくりするものに違いない」そんな無茶な期待を僕に抱いて回答を待ったはずだ。
ここで僕が、「従来のイメージに固執したキムタクと、イメージを打ち破る勇気を持った松嶋奈々子との差だな」とか言ったら、君はがっかりしないか。

山田君 まあ……その程度かよと思ったかもしれないですね。

博士 ……なんか、ちょくちょく腹が立つが。
君は僕に「想像もしなかったすごい分析」を期待した。だから、想像の範囲内だった答えにがっかりした。

「期待」の大小が、「家政婦のミタ」と「南極大陸」の差を大きく開かせた要因だと僕は思う。

松嶋奈々子は、この2~3年大ヒットがなく「過去の人」になりつつあった。加えて、地味そうなホームドラマで冗談のようなタイトル。視聴者は「松嶋奈々子のドラマだから相当面白いだろう」なんて思わずに見た。すると、とても面白かった。期待していなかったものが予想以上の結果を上げると感動も大きい。特に今はソーシャルメディアが発達しているから、前回話したすぐテンションが上がる「察する能力の低い」タイプの人(参照 【第6回「談志はしんだ?しんでない?「流されやすい人々」に要注意!」】http://u-rennai.jp/goodwill/ent/45)が、こぞって「すごい!」「面白すぎる!」と発信する。それでこれほどの大ヒットになったのだと思う。

山田君 「ミタ」を期待せずに見たからより面白く感じたと。

博士 そうだ。それに対し「南極大陸」はキムタク主演であることはもちろん、脇のメンバーも演技派ぞろい、映画と見紛うような大規模ロケ、苦難に立ち向かう感動ストーリー。「このドラマは相当面白いに違いない」と多くの視聴者は超期待して見た。テレビもそれを煽(あお)ったよな。すると、そこまでではなかった。
「ミタ」は期待せずに見たことで面白く感じられ、「南極大陸」は期待しまくって見たことでよけいにつまらなく思えたんだと思う。

おそらくだが、高視聴率が話題になってから「家政婦のミタ」を見た人の中には、「これのどこがそんなに面白いの?」と感じた人もそれなりにいると思うぞ。

山田君 超面白いと期待して見るからですね。じゃあ南極大陸は、「豪華キャストだけどそんな面白くないっすよ」って宣伝すればよかったのでしょうか?

博士 そんな宣伝不可能だろうが、もし何の期待もされずに見られていたら、「南極大陸」は現状の数倍は面白がってもらえたんだと思う。

実は、この世界は、期待しすぎると不幸になり、期待しないと幸福になるんだ。
これは恋愛にも、人生にも言える。

好きなら毎日電話をくれるはず、記念日にはお祝いしてくれるはず。そう思っている人は、相手がその通りにしてくれても、それを当たり前としか思えない。してくれないとがっかりするから、「なんで○○してくれないんだろう」と思い悩むことが多くなる。だが、相手に何も期待していなければ、電話をもらえればうれしいし、記念日を祝われば感動するだろう。相手の愛を感じる機会が多くなり、幸せな恋愛ができる。

仕事でもそうだ。上司や部下に期待しすぎるから、できないことばかりに目が行く。よく上司の悪口を言っている人を見かけるが、そいつが期待している上司なんて、もはやスーパーマンだよってことも多い。期待を裏切られるから、自分のモチベーションを下げたり、相手にぶつかって嫌な気分にさせたりする。期待することで仕事をつまらないものにしていくんだ。

さらに言えばな、今の政治についても同じことが言える。
今、どの党が政権をとっても、誰が総理になっても、増税や年金支給年齢の引き上げは避けて通れないし、高度経済成長の頃やバブル期のように日本が栄えることはない。なのに、「次にトップに立つ人こそ今の問題をすべて解決して幸せに導いてくれるんじゃないか」そう期待するから、失敗や不手際にばかり目が行く。失望して次のトップを求める。こうして期待→失望を短いスパンで繰り返しているから、何も決まらず、トップばかりがコロコロ変わることになる。国民が政治と政治家に対して、「期待しない時期」をしばらく持つ方が、この国を良い方向に導いていくと思うね。

山田君 期待しすぎることが結局は自分の首を絞めていくってことですか?

博士 そうだな。少なくとも、なるべく期待しないほうが幸せになれるということだ。

山田君 「家政婦のミタ」から人間関係や政治の話まで広がっていくとは……。
さすが博士、勉強になりました。次回もきっと超面白いお話を聞かせてくれますね!

博士 君は本当に人の話を聞いていないな


今回の勝手アドバイス
期待しすぎないことでドラマも面白く、人生も楽しくなる

<次回予告>
2011年もあと少し、今年の注目ニュースを博士流におさらいします!

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