産婦人科医・対馬ルリ子先生インタビュー全5回vol.4〜月経や妊娠をコントロールできる 低用量ピルは女性ホルモンの安定剤
女性ホルモンを安定させる方法
「恋愛x女性ホルモン」と題して回を重ねてきた産婦人科医・対馬ルリ子先生のインタビューも今回が4回目です。
今回は、女性ホルモンのゆらぎによってバランスを崩しがちな私たちが、どうすればカラダも心も安定するのか、の方法について教えていただきます。
「低用量ピル」について、知っている人も知らない人も、正しい知識を身に付けて、ぜひ活用してみましょう。(恋愛ユニバーシティ編集部)
第1回:産婦人科医・対馬ルリ子先生インタビュー全5回vol.1〜男の本能をくすぐる女性ホルモン「エストロゲン」を活用せよ!
第2回:産婦人科医・対馬ルリ子先生インタビュー 全5回vol2〜女性ホルモンのピークは20~30代! 無駄にしないための婦人科検診を
第3回:産婦人科医・対馬ルリ子先生インタビュー 全5回vol3〜女性ホルモンで知る、 出産のタイムリミット
対馬ルリ子先生
医療法人社団 ウィミンズ・ウェルネス 理事長、対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座 院長。産婦人科医師、医学博士。2003年に女性の心と体、社会とのかかわりを総合的にとらえ女性の生涯にわたる健康を推進するNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立。全国約600名の医師、医療保健関係者と連携し、さまざまな啓発活動や政策提言を行っている。著書に『恋より美容液よりシンデレラホルモン』(経済界)『女性ホルモンで世界一幸せになれる日本女性』(マガジンハウス)など
女性ホルモンのバランスを整える低用量ピル
山際 ここから2回は、低用量ピルについてうかがいます。ピルというと真っ先に浮かぶのが、一時期言われた、「がんになりやすい」というようなリスクですが、このあたりはどうなのでしょう?
対馬 ピルを飲むとがんになるとか、ピルを飲むと心筋梗塞や血栓症で命が危ないとか、そういうデマ的なことは今やデータによって完全にクリアできています。確かにホルモンがない50代以降の人がホルモンを使うと少し乳房に対する刺激は違うということはあります。しかし逆に、20代30代でホルモンが充分にあって動いている人たちがピルを飲むと、むしろホルモンバランスが安定するんですね。それによってたとえば乳房の病気は減り、乳がんは増えない。それから子宮内膜症とか、子宮筋腫なんかのホルモンに依存している病気はかえって減る、あるいは治療になるので今は治療薬として保険で使われています。
山際 むしろメリットがある。それはあまり認識されていませんね。
対馬 そうですか?世界にとりのこされたガラパゴスですね。自然派の人は自然がいいと言いますが、自然のホルモンは何の問題もないかというと、そうでもなくて、自然の女性ホルモンも悪さをすることはある。たとえば妊娠していない間は毎月ホルモンの波が乳房を刺激しているわけなので、乳房も子宮もホルモンに痛めつけられています。乳がんや子宮筋腫、子宮内膜症が増えてきた理由です。こうした自然ホルモンのデメリットを打ち消すように、女性ホルモン薬を上手に使うという風に考えたらどうでしょう。
ピルとは、体の外から取り入れバランスを良くする女性ホルモン
山際 そもそも、ピルというのはどういう薬なのでしょう?
対馬 ピルは、女性ホルモンのお薬です。女性ホルモンにはエストロゲンとプロスゲステロンがあるというお話をしましたが、プロゲステロンと言えば、天然の黄体ホルモンのことで、天然ではなく合成されたものを プロゲストーゲンといいます。このプロゲストーゲンとエストロゲンを、最初からバランスよくひとつの錠剤にしたものをピルと呼んでいます。
山際 だからピルは女性ホルモンを体の外から取り入れるお薬であると。
対馬 はい、ですから、「私はホルモンは嫌い、ホルモンはダメ、ホルモンはがんになる」と言い続けていたら、もともと自分の体の中にあるものをずっと否定していることになりますよ。
山際 確かに。
対馬 女であること、そして自分を守ってくれている女性ホルモンをダメダメってずっと思っていたら、それこそ自分の力を否定することになってしまうので、自分の中にある、いいもの、私を守ってくれているホルモンはすばらしいと思って、自分の体の中にある女性ホルモンも大切にする。その一方で、今は生活がすっかり偏ってしまって、子どもを産む機会が少なくなったり、ひどいストレスをかけたりして、体にひずみがでてきている。それを上手にカバーしたり、バランスを整えて病気予防するのに使えるのが外から入れる女性ホルモン、ピルです。
山際ピルが生まれた背景についても少しお話いただけますか。
対馬 女性ホルモン研究の歴史って短いんですよ。だいたい1950年代にホルモン研究が盛んになって、それは不妊の人をなんとか妊娠させたいという目的で始まったんです。豚の卵巣を何トンも集めてすりつぶして,そこから何ミリグラムという女性ホルモンが取れた時代から、だんだん進歩してきて、ホルモンの力で妊娠したい、あるいは避妊したいときを使い分けられるようになった。そして社会的背景としては、やっぱり働く女性が増えてきた。月経に翻弄されたり、妊娠に翻弄されたりしてしまう女性の人生を、自分の意志でコントロールできることを夢みて、女性たちの希望で作られたのがピルなんです。
山際 避妊はそれまで相手の男性任せというのが大勢でしたから、画期的な試みですね。
対馬 しかしピルの開発者のめざした、女が働くとか、自分で妊娠や月経をコントロールすることは、当時は神に対する冒涜であると言われていた。そういう宗教的背景とか、あるいは女性は産むべき存在だから、コントロールしてはいけないという宗教的封建的考え方が根強かった。そういう時代に、女性も、自分がいつ産むかとか、ちゃんと働いて社会でもある程度責任を果たせるようにということをサポートするために、女性ホルモン研究が進んできた。
山際 やっぱり時代によっていろいろな誤解があったし、その中には偏見もあってそれがまだまだ日本では生き残っているということでしょうか。
対馬 はい、世界ではそれをクリアするべくいろいろな科学的な膨大な研究がなされ、どんどん進化してきています。日本でピルが使えるようになったのは北朝鮮よりも遅かったのですが。今は進化型の新しいピルを、私たちも使えるようになっているので、ぜひ女性なら上手に使って欲しいですね。
産婦人科、内科、皮膚科でもピルは処方される
山際 でも使ったことがないと、不安やどうやって使えばいいのか、こんな症状がでているけれど問題ないのかとか、いろいろな疑問がでてきますね。
対馬 そのために例えば産婦人科のかかりつけ医が相談にのったり、飲み方を説明したり、疑問に応えてずっとフォローしていく制度が必要です。そういうヘルスアドバイザーとしての医師がいまだんだん増えてきています。
山際 ピル自体は産婦人科の先生の処方でしか手にはいらないのですよね。
対馬 そんなことないですよ。内科の先生でも皮膚科の先生でも処方できます。
山際 え、そうなのですか。
対馬 皮膚科でなぜ出すかというと、劇的にニキビや肌荒れがよくなるから。
山際 それは知りませんでした。
対馬 2週間ほど飲むと、ホルモンのバランスが安定してお肌がつるつるになります。二キビや肌荒れで悩んで病院に通ってはいろんなお薬を飲んでいる人は、一度ピルを試してみればよいと思います。安全性は確立しているので。もちろん医学的に飲めない人、たとえば、乳がんの治療中の人などは、ホルモン使えないんです。でもピルの内服はダメと診断された人以外は、みんな安全に飲めます。2~3か月試してみると、世界が変わりますよ。
山際 対馬先生も飲んでいらっしゃいますか?
対馬 もちろん。私自身はね、40歳くらいの時に日本に初めてピルが入ってきたので、それ以降15年くらい飲んでいましたが、一番よかったのは「安定」です。心とからだが安定して、生理も楽になり、とても働きやすくなった。揺らがない自分というのを初めて経験しました。
山際 そのあたりのお話は、この次の章で詳しく教えてください。
(続く)
(取材・文/山際恵美子)
『女性ホルモンで世界一幸せになれる日本女性 』
対馬 ルリ子
(マガジンハウス)
・「低用量ピル」は体の外から取り入れる女性ホルモン
・ピルは婦人科だけでなく皮膚科・内科でも処方される
山際恵美子 (編集プロデューサー)
編集プロデューサー。元マガジンハウス「GINZA」編集長。大学卒業後、ロータリー財団奨学生としてフランス留学。
帰国後平凡出版(現マガジンハウス)「Elle Japon」創刊メンバーとして出版の道に入る。ミラノ・パリコレクションの取材を10余年経験。その後書籍編集に移りベストセラー「断捨離」 の担当編集はじめ、ライフスタイル、医療、美容、料理と幅広い書籍を出版。2016年3月退職し、フリーの編集プロデューサーに。また、プロのフランス語原語シャンソン歌手の顔も持つ。
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